ラットの解剖 3B01

私がラットを解剖する前、生命論を選択していない生徒に「なぜ解剖するのか」と問われたことがあった。そのとき私は明確に答えられず「ラットの身体の構造を知るためとか、生命の重みを知るためとかかな」と曖昧で陳腐な答えを言った。答えられない自分が恥ずかしかった。私は昔、鶏を屠殺して食べたことがある。その鶏は私の身体の一部となった。その過程はどの野生の動物も行っていることで、その時は生命の重みを知ったというよりはいつも肉を解体してくれているどこかの誰かへの感謝への想いの方が強かった。しかし、今回の解剖と屠殺は本質的に別物だ。少なくとも私には、曖昧な答えしか返せない程度の解剖の目的しか持ち合わせていなかった。こんな人間が一つまたはそれ以上の命を奪っていいのだろうかという不安を抱いた。
実際、最初に獣医さんが一匹のラットを解剖したときそれが余りにも素早くて「どうせ同じ命を頂くなら、最後までちゃんと仕組みを見てみよう」と思えた。
自分がいざ解剖をする番になって、大きな瓶にジエチルエーテルを多めに入れて蓋をし、自分が育てていた雌のラットをその中に入れようとした。その時ラットは危機を察知したのか、今までにないくらい抵抗してなかなか瓶に入ってくれなかった。瓶に入った後、数分するとラットは手を空に伸ばして段々と弱っていき最終的には瓶を揺すってもビクともしなくなった。蓋を開けてラットの身体を掴むとまだ温かく、とても柔らかかった。ゴム板の上でガムテープで足を貼り付けて腹部を切開するとそれは自分がいつも見ているような鶏肉と同じようだったので、自然と抵抗感は失われた。そして肉の部分を切開して内臓を露わにするとよく小さい身体にこれほど多くのものを詰め込めるな、というくらい大量だった。まず1番初めに目についたのは赤黒い肝臓だった。獣医の先生が肝臓は葉っぱみたいな形をしていると仰っていた通り、平べったい形をしていて取り除くために裏の血管を切断したら本当に多量の血が溢れ出してきて、少し動いていた心臓も動かなくなってしまった。ここから腸間膜や脂肪を切る作業は、普段私は鶏肉をハサミで捌いているのですぐに進めることができた。意外にも内臓は丈夫で消化器官は全て繋げたまま取り除くことができた。次に私は子宮を摘出した。私が育てていたラットは合計17匹身ごもっていた。一つ一つはまだまだ小さく、細かい部分は目視できなかった。次に肺と心臓を摘出した。そして肋骨を削いで、甲状腺を摘出後、気管が確認できた。次に、頭部を胴体から切り離した。さすがにふつうの料理では頭を扱うことはないので、とても緊張した。そうすると、今まで赤かった目の色が血が通わなくなって透明になっていた。次に脳を摘出するために頭蓋骨に隙間を作らなければならなかったが、その前に毛が邪魔になってしまうので一旦皮を全部剥いだ。すると、筋肉がラットのヒゲのあたりに大きく発達していることが分かった。頭蓋骨は硬すぎて、この切断に解剖の殆どの時間を割いてしまった。それだけ脳は動物にとって守られて然るべき、重要な器官なんだなと思った。次に、脳を取り出してみたが、途中で刃物で傷つけてしまったようであまり深く観察できなかった。最後にラットは育てている間にとても噛む力が強いと感じていたので、歯を見るために下顎を切開した。下前歯は大体1センチくらいで上前歯は大体その半分くらいだった。どちらもとても鋭利で、噛む力はさっき見た頬の筋肉に由来していると思った。育てている間、ラットの舌は約3ミリほどしか出ているのを見たことがなかったが、実際は喉の奥から舌先までは約3センチと非常に長かった。
私は前日、本当にこの子達を解剖できるかと不安だった。その日私はかなり長い間ラットを観察して、ようやく解剖する決心がついた。だから今回は心配していたよりもラットの身体の内部構造を詳しく観察できたのだと思う。