第10回 不妊治療の実際

不妊治療の実際

今回は、阪南中央病院の藤田圭以子先生と立命館大学の荒木晃子先生をお招きして、不妊治療の現場についてお話を聞かせていただき、その後簡単なディスカッションを行いました
治療についての知識
そもそも不妊とは、不妊症とは何なのでしょうか?
現在の日本では、一定の頻度で性行為を行っても一年間子供ができないと不妊であるとされるそうです。
しかし、その時点ではただの不妊、「不妊症」ではありません。病院に行って診断を受けて初めて「不妊症」となるのです。

不妊治療には大きく分けて3つの段階があります。
STEP1 タイミング法
受精は、卵巣から飛び出して卵管に吸い込まれた卵子と子宮を通って卵管に上ってきた精子が出会って起こります。タイミング法は、排卵のタイミングを見計らって性交渉を行うことで受精する可能性を高めようというものです。
STEP2 人工授精
タイミング法で上手くいかなければ、人工授精を行います。遠心分離にかけ生き残った精子を細い管で子宮の奥に送り込みます。着床を促す注射なども打ちますが、妊娠率は10%程度です。
STEP3 ART
ART:Assisted Reproductive Technology(生殖補助医療技術)
体外受精や顕微授精がここに含まれます。
まず、授精に使う卵子を採取します。通常一回の排卵でできる卵子は1、2個程度ですが、この場合できるだけ多くの卵子を採取するために注射を打ちます。人によっては20個もの卵子が採取できますが、半分ほどは成熟していなかったりしすぎていたりします。また注射にはむくみや腹水などの副作用があります。
体外受精は採取した卵子精子を振りかける方法で、受精率は6~7割程度、顕微授精は細い管で精子卵子に注入する方法で、受精率は7~8割程度となっています。

技術は非常に発達していますが、妊娠して流産もせず出産までたどり着く人の割合は決して多くありません。

当事者心理
治療を始めた人の半数以上が子供を得られないまま治療を断念する、そのような状況の中で問題となるのが当事者の心のケアです。不妊に伴って感じる葛藤を不妊心理といいます。
不妊心理には3つの要因があります。
①自分の考えに由来するもの(家族とはこうあるべきだ、という自分の考え)
②対人関係に由来するもの(親戚や友人からの圧迫など)
不妊治療の特性によるもの
  (不妊治療は妊娠できる可能性は0%ではないので、期待しては失望するというサイクルを繰り返しがち)




国内の法律の制定が進んでいないことや生殖医療には限界があること、養子縁組を組むにしても煩雑な手続きが必要であることから、不妊カップルの支援はさまざまな角度から行うことが重要です。



以上のような状況を踏まえて、簡単にディスカッションをしました。
夫婦間の温度差について、どのようにすればなくすことができるのか、姉妹間の卵子提供について、自分が当事者の立場ならどうか、などを話し合いました。
夫婦間の温度差については、普段からきちんと話し合っておくことが重要だという意見がありました。



「わが子よ」を読んでいても思ったけれど、不妊治療の問題は単に治療の問題だけではないということがよくわかりました。大切なのは、幸せのかたちは人それぞれであるときちんと知ることだと思います。子供がいなければだめだとか自分の子でなければならないというわけではないと思います。また、治療を行うにしても、自分の意思をはっきりもっておくということが重要だと思いました。(検査にいったついでに排卵のタイミングを聞いてしまうとそこでもうタイミング法は始まってしまうというのは衝撃でした。)