ハンセン病と人権  ハンセン病を生きて   Y.A


 これらの本を読んで私が一番強く感じたのは、世の中には知らないことが多いということだった。
 間違っていた国の政策が100年近くも続けられたということを、私はまったく知らなかった。「ハンセン病を生きて」の作者、伊波敏男氏は言う。「国民の積極的支持、あるいは無関心という消極的合意があったからこそ、この法律は生き延びてきたともいえます。」私もまた、この無関心な国民のひとりなのだろうか・・・。

 そして伊波氏は著書の中でハンセン病の歴史をこのように表現している。
「この国のハンセン病者の歴史は排除と抹消の90年だった。国の体面や公衆衛生など大義名分は変化してきたが、多数者のために病人が病み棄てられ、家族もいわれのない汚名の下、否定され続けてきた。社会から排除された人たちの悲しみや怨みは、余りにも長く、深い。 ――
そして、多くの犠牲者が作り出され、取り返しがつかない状態になって、やっと行政方針が修正される。「らい予防法」はその典型例である。」

 そもそも明治維新当時、日本のハンセン病はフランス、イギリス、アメリカ人神父たちによって開設された施設に依存していたらしい。この事実にも驚くと同時に情けないとも感じる。なぜ日本の政府は患者のために真剣に取り組まなかったのだろうか。アジアやアフリカに多いハンセン病患者を国辱と考え、欧米諸国と対等な外交関係を保つために、要するに見栄のためだけに患者を隔離し、それを正当化したのだという。

 その間違った政策は患者や家族にどれほどの犠牲を強いてきたことだろう。ハンセン病にかかったひとびとに一生の隔離を科すという対応が、人権侵害の最たるものだと国際的に酷評されながらも長年にわたって改められなかった事実を知ってとても驚いた。私は今後、今までよりはせめて少しでも積極的に考える側に立ちたいと思った。
 また、日本がかつて外国に対する見栄のために国民を顧みようとしない国家だったということにかすかな恐怖を感じた。このような態度は、まさに私が抱いている太平洋戦争での日本の姿勢と似ていると思った。

 1943年にアメリカでスルフォン系薬剤であるプロミンハンセン病の治療効果にすぐれていることが発表されて、ほんとうによかったと思う。

 現在、世界のハンセン病の状況は、WHOを中心に大きく改善していると知り安心した。また日本のNPOも重要な貢献をしているらしい。人権の本の最後に語られている「ハンセン病は決して特殊な感染症ではない」という言葉が印象に残った。