生命倫理の問題を考えるときの諸原理について(3A 33)

2009年5月29日(金)の講義です。
遅くなってごめんなさい...

今回は前回に引き続き堀先生に講義していただきました。

テーマは「生命倫理の問題を考えるときの諸原理について」です。




1.人間の尊厳について―「人間」の価値について

  西洋における「人間の尊厳」という概念
  
   ①キリスト教における人間の尊厳(神との固有のつながり)

     “神が人間を創造したのだから人間は偉い”と考えられていた。
     (キリスト教の時代において神は価値の根源であった。)     

   ②西洋近代における人間の尊厳
      
     カント(18世紀 ドイツ 哲学者)
      ・動物性(感覚)
      ・人間性(理性)→思考・判断
      ・人格性(道徳)

   ③現代における人間の尊厳
    
     人間の尊厳を法的に認めていく。


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   人間は何故偉いのか?(是非を判断するには根拠が必要)
   →根拠:“自分を考え、他に伝える、行動する”ことができるから。
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 ◆パーソン論:トゥーリー(オーストラリア 哲学者)

   “生物学的な概念としてのヒト”の部分集合に“パーソン”がある。
    
    ※パーソン:自由意志、行為する力を持った可能的人格

   どこまでが人間とされるのか?
   胎児、植物人間、重度の障害を持って生まれてきた人・・・
   パーソンに含まれる?生存するための権利は?

   受精卵は意志を持たない
   →パーソン論では人格は認められない?

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 ◆「人間の尊厳」か「生命の尊厳」か

   功利主義ピーター・シンガー(オーストラリア 哲学者)

   人間は快苦の感情で行動している。
   “快”を増やし“苦”を減らすべきである。
   社会的にも同じことがいえる。
 
   理性的な行動ができない人間<ある種の生物
   (快苦を感じられない)   (快楽を感じられる)
 
   例)人間は動物の肉を食べなくても死ぬことは無い。
     それなのに、動物に苦しい思いをさせてもいいのか?
     →ベジタリアン




2.生命倫理問題におけるいわゆる三原則について
    

  ①功利的自己決定権
  ②個人の幸福追求権
  ③他者危害原則

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  他者に危害を加えるのでなければ、自分がどのように行動するかは自由
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 ◆自己決定をめぐって
  
   ひとりのガン患者がいたとする。
   ・本人の希望により、積極的な治療をしない→○
   ・苦痛を緩和するために、多少の生命の短縮が伴う薬を使う→○
   ・安楽死させる→×
    ※ただし、非常に末期であり、患者が絶えがたい苦痛にさいなまれている
     場合において、医者が安楽死させたが罪に問われなかった判例もある。
     →耐えがたい苦痛…肉体的苦痛でなく、精神的苦痛の場合は?

   自己決定を認める→自殺は許されるのか?

   
   ALSなどの病気により人工呼吸器をつけるかつけないかの選択を迫られたとき
   当の本人が判断できない場合は誰が決めるのか?―――自己決定の代行における問題



 ◆個人の幸福追求権をめぐって

   エンハンスメント(増進的介入)
   ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
うつ状態を改善する薬→○
   麻薬→×

   身体改造はどこまで許されるのか?

   目の悪い人が視力回復のためにレーザー治療を受けるのは?
   小さい頃から習い事をさせるのは?
   DNAをいじって生まれてくる子供の能力向上をはかるのは?
   
   何がその人にとって“幸福”なのか・・・?



 ◆優性思想をめぐって

   ダーウィン:幸福論 →→社会に適用→→ 社会ダーウィニズム

   
   断種法(1902 アメリカ)
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    知能の発達が遅れている人や、犯罪を繰り返す人々に
    子供を作らせない(断種させる)ことは社会にとって善である。
    前もって予防する。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

   子供が幸せになれるように、
   受精卵を調べて選択するのは○?
   受精卵に手を加えるのは?

   子供が障害を持っているから中絶→×
   産まない→○
   あらかじめ予防(≒断種法?)



 ◆他者危害の原則―自己決定だけでは済まないこと

   末期の患者が“最期は家で迎えたい”と思っても
   それは家族に負担をかけるかもしれない。
   →言い出すことができない。

   臓器移植→他者との関係


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3.平等と公正について


 ◆社会的公正さをめぐって(社会の中の個人)

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  ①リベラリズム(自由主義福祉国家)
    ロールズ(アメリカ 哲学者):他者の権利を侵害しない
  ②リバタリアニズム(自由至上主義)
    人間が自由にすることを阻害するものの排除
  ③コミュニタリアニズム(共同体主義)
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 ◆能力の不平等をめぐって

  ・許される不平等(例:給料)
    能力の差によっての不平等→○
  ・許されない不平等(例:女性不採用)
    性別などによる差別
    

  全ての人に機会が与えられる
  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
   社会の利益を増す
   →不平等が多すぎる場合においてのみ手当て





 ◆◇◆感想◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 生命倫理の問題を考えるとき、是非をはっきりさせられないものが
 数多くあるように、これを考えるときの諸原理においても同様で、
 くっきりとした境界線は引くことができないんだなあ…と思いました。

 人間は偉いとされ、様々な動物が虐げられていることは本当に
 間違っていないのか?
 ではそれが正しいとしても、どこまでが“人間”とされるのか?

 など…何が正しいのかわからないことだらけですが、
 このような問題に対して、これからの倫理の授業を通して、
 深く考えていきたいと思います。


 また自己決定権が認められてるとはいっても、
 やはり私達は自分ひとりで生きているのではなく、
 周りの人々や社会に支えられて生きているので、
 必ずその決定はそれらのものに影響を及ぼしてしまいます。

 だからこそ、自己の確立された意志をしっかりともち、
 自分の決定に自信を持てるようになりたいです。

 私達人間にだけが所有する“自分を考え、他に伝える、行動する能力”。
 他の生命よりも優位に生活しているのだから、
 この能力を最大限に磨いていくべきだと思います。

 生命倫理を考えるのならば、まず“自分を考える”ことが
 大切なのだと思いました。
 
 
 今回、諸原理について学習したことで、
 これからの生命倫理を考えるにあたって、
 視野が広がったような気がします:)

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