生命論第8回 ⅢD21

   今日の授業でも、外部の先生方に来ていただき、藤田先生に、不妊とはどういうことなのか、から始まり具体的な不妊治療の方法やそれに伴う高額な治療費のこと、日本と海外の異なる治療方法・生命概念について、また荒木先生に、不妊に悩む人たちの心理的構成要因、不妊に対する今の社会的理解を日本独特の境界といったお話や実際の事例もふまえながら、広く深くそして濃く講義していただきました。
本当にありがとうございました。

私たちはつい先週、荒木先生のやっておられるODnetのことを学んだばかりで、私自身すごく興味をもって2時間集中することができました。改めて生命論を選択してよかったなと思いました。

今から順にまとめていきますが、おそらくかなりの長さになると思います…
長文投稿失礼します。

1.自然妊娠
脳の視床下部から分泌されるろ胞刺激ホルモンによって、ろ胞が成熟し、エストロゲン(ろ胞ホルモン)が分泌される。これは黄体形成ホルモンの分泌、黄体形成を促進する働きがある。そして、エストロゲンプロゲステロン(黄体ホルモン)により子宮内膜が肥厚し、卵が2㎝ほどの大きさになったとき卵管が卵巣をつつみ、卵が卵巣をやぶって排卵に至る。この時に女性は基礎体温があがるとされている。
ちなみに一人の女性がもつ卵の数は有限であり、出生前に100万個の卵をもっているとしたら、月経が始まるころには5万個にまで減少している。
その排卵にあわせて、精子が子宮を通り卵管のぼうだい部と呼ばれる場所で卵にたどりついた時、はじめて受精したといわれる。

2.生殖補助医療技術(Assisted Reproductive Technology)
step 1:タイミング法 排卵日を患者に伝えることで妊娠しやすくする。(成功率 約10%)
step 2:人工授精 タイミング法を1年以上継続しても妊娠しない方や精子濃度が薄い方が対象となる。
精子を遠心分離にかけて、子宮に対して抗体をもつ精液を除去し、それを子宮の奥に送り込む。(成功率10%強)
step 3:体外受精・顕微受精(ART) ろ胞刺激ホルモンの注射を6,7回うち排卵を誘発する。卵巣にできた卵を採卵する。卵子の成熟度を確認したのちに、顕微授精・体外受精を行い培養して、最大2個まで子宮にもどす。
日本では減退していく卵を否定的にとらえ、移植可能な卵は2つまでと定めるが、諸外国では3つ以上も行われる。
では、なぜARTが必要なのか?それは自然妊娠を妨げる卵管因子や子宮内膜症、受精の異常、精子を受け入れない抗精子抗体、男性の精子が問題とされる男性因子など、さまざまな病気が存在するために、それに苦しむカップルも多い。年間で生まれる赤ちゃんを100万人とすると37人に1人がARTで出産していることがわかっており、不妊に悩むカップル自体は6組に1組とも言われる。

3.高額な治療費と精神的痛み
体外受精(1回)で50~60万円、タイミング法(1回)で1万円、人工授精で5万円、注射は初回は保険がきいて3,000円だが次回からは10000円、エコー4000円、それに加えて診察代や人によれば海外渡航代も支払わねばならず、またすべての治療において、なんらかの痛みが伴い、特に女性は妊娠することだけに集中せねばならず、心身共に疲れ果ててしまう場合もある。大阪では不妊治療に取り組むカップルに年5万円の支給があったり、福井では3回までは全額保障といった保障があるが、自治体によりまちまちである。
また、精神的にも痛みは存在する。不妊はそのカップルだけの問題に留まらず、親からのプレッシャーであったり同僚・同期のベビーラッシュ等により社会的な圧力もかかり、不妊であることを否定的にとらえ、それが引きこもりや離婚の原因のひとつになってしまうこともある。
そもそも不妊とは、結婚して2年間、子どもを希望(挙児希望)し性行為を行っているにも関わらず妊娠しないことをいい、病院で診断を受けてはじめて不妊症となる。患者になるということは自分の体の問題を解決するために自ら行動化したことであり、なにも否定的にとらえることはないのではないか。
最近では家族の問題であろうとも、特に子どもに関する問題であれば、行政も警察も児童相談所も介入することが可能となり、もはや社会的問題としてみんなで解決策を探ることができるようになってきた。

4.不妊心理の構成要因
不妊心理の3因子(3.をまとめると…)
①自己信念性要因→個に由来(家族概念)
②環境対人関係性要因→対人関係(社会)
③医源性要因→治療特性に由来(医療)
  ⇒当事者にある共通因子であり、これは生殖医療で強化される危険性も示唆する
Cf)パターナリズム:事実上権力をもつのは医者であり、権力をもたない患者が医者の診断等を、そのまま受け入れざるを得ないこの状況を医原性要因という。

5.不妊治療に伴う強い背反性
産みたい/産めない 期待/不安 希望/失望 妊娠したい/治療したくない …
これは初診に近ければ近いほど、背反性は強くなっていく。

6.境界の問題(破る/超える)
・夫婦間の境界、世代間の境界、血縁の境界…○○家を守る、といったようなもの
・身体的な境界…精子・卵の提供による Cf)精子提供は戦後すぐに始まる 匿名の人:1万人→輸血時に発覚
・時間的な境界…精子・卵・受精卵の凍結保存技術の確立による
・道徳的な境界…婚外子代理出産
・地理的な境界…生殖ツーリズム

7.具体的事例(2ケース)
今回、荒木先生に教えていただいたのは早発閉経に悩む女性と無精子症に悩む男性のお話。
早発閉経とは、一般的には50歳ぐらいで閉経をむかえるのに対して37歳より若い段階で閉経してしまう病で、この女性は、日本でかかったドクターに言われるがままアメリカでの卵子提供を要望し、単身渡航を重ねることとなり、最終的に経済的にも精神的にも疲弊してしまいかねないことになっていた。
無精子症とは、射精はできるがその中に精子がほぼ入っていないために女性の妊娠に至らない病のこと。
この男性は、実の弟に精子提供を求め、また弟も快諾したが、弟の婚約者が納得しなかったために断念せざるを得ず、男性は妻に離婚を申し出た。

8.親と共に暮らせない子どもたち
日本国内に5万人(←国連から是正勧告が出される)
里親になろうという意思のある家庭数が戦後、激減していることもあり、子どもたちの受け入れ先がなく、そのまま施設育ちになってしまうことが多い現状。⇔スウェーデン社会保障
しかし、養親になるためには
・子どもが20歳になったときに養親が60歳以下であること
・実子の育児経験がある
・母親の就業は認めない…といった時代にあわない厳格な条件と煩雑な手続きがあることも原因のひとつか。
不妊に悩む人たちを受け入れ先としてできないか
でも、不妊の初診時平均年齢は年々高齢傾向にあり、いまでは39歳で、このままではすぐに養子をとるか治療にふみきるかの二択になってしまう。

9.ODnetについて
荒木先生も理事を務めていらっしゃるODnetとは無償で卵子提供を試みるNPO法人ターナー症候群の娘をもつ母親が中心となって構成される。ターナー症候群の女性は性染色体がXXではなくXOなので、自分の卵をもっていない。レシピエント(卵子提供を受ける側)は生まれてくる子どもに出自を知る権利を保障することを大切にする。ドナーに求められる条件は出産経験があること、35歳以下であることを挙げる。マッチングを経たのちに卵子提供にいたる。

以上で今回の授業のまとめを終わります。
長文失礼しました。