生命論第9回 ?鶚D32

ブログアップ遅くなって、申し訳ありません。

今回の授業は、京都女子大学現代社会学部、大阪大学医学系研究科の霜田求先生に来ていただき、「脳と心」という題で講義をしていただきました。
霜田先生には生命論が立ち上がってからの10年間、毎年講義に来ていただいていています。また、私たちが生命論の授業(第五回の授業です)で用いた本も、霜田先生が書いておられる、ということで、大変お世話になっている先生です。

以下、授業のまとめです。


1.恋する脳
(1)報酬系と気持ちの関連
人間の脳の中には、快楽を感じる「報酬系」と呼ばれる神経回路のシステムがある。これは、人間のプラスの感情に関わっている。報酬系の刺激による快楽の一例として、麻薬や覚せい剤が挙げられる。これらは、とても強く報酬系に影響するため、使用時はとてつもない快楽を覚えることができる(当然の事ながら、法律違反である)。
報酬系を刺激する物質として、オキシトシンバソプレシンというものがあるが、これらの物質は報酬系を刺激する事で、脳内快楽物質であるドーパミンの分泌調節をする。オキシトシンは女性特有の物質であり、出産時に大量に分泌される。オキシトシンには子宮を収縮させる効果もあるのだが、それと同時に、子どもに対して愛情を抱かせる効果を持つ。すなわち、普段あまり意識しない事ではあるのだが、私たちの気持ちは、脳内の物質によって機械的にコントロールされているのである。それと同様に、恋愛に置いても、人間が恋をするのは報酬系による満足感や多幸感を得るためだと言える。

(2)脳腫瘍が性的嗜好に影響した例
小児性愛的行動を繰り返していた40歳の男性は、その原因が脳腫瘍であったと、とする医師団の発表があった。性犯罪歴はなかったが、前頭葉右部に鶏卵大の腫瘍が原因で小児的性愛行動をはじめた。医師団は「脳腫瘍がこのような行為を必ずもたらすわけではないが、この患者の場合は脳の器質的異常が性欲に異常をもたらしていた事は確かだ」と述べた。脳腫瘍が摘出された後、患者の問題行動は消失した。
このような行動は以前は遺伝子のせいであると考えられていたが、現在は脳の働きの影響である事が言われている。脳に影響を与える原因として、母親の胎内にいたときにおこった何らかの出来事や、幼少期の環境などがあげられる。

2.脳の映像化
(1)fMRIの活用
fMRI(立体機能的磁気共鳴画像法)によって、脳のどこの部分が活性化しているのかを調べる事ができる。例えば、文字を読んだときは視覚野が、言葉を聞かせたときは聴覚野が活性化する事が、この方法を使って確認できる。

(2)精神疾患の発症前診断
1980年代以降の画像診断による研究から、総合失調症患者は通常より側脳室が大きく、海馬が小さいなどの「器質的異常」を伴う事が知られている。すなわち、病気の発症以前であっても、将来の発病をを診断する事が可能なのである。
しかし、そのような技術を実際に用いる事は妥当か、などの倫理観の問題が立ち上がってくる。たとえば、脳の画像診断によって精神疾患の余地がかのうであるとされば、医療保険や生命保険の審査に脳画像の提出が義務づけられる可能性がある。さらに、発展させて考えてみると、子どもの脳を調べる事によって子どもを能力別にクラス分けする、などの将来の可能性もある。

3.脳はウソをつけない?
(1)犯罪現場などに用いられる嘘発見機
脳の診断技術が発展する前は、嘘発見機として、呼吸、脈拍、血圧などの複数の生理現象を計測すると言う方法が用いられていた。しかし、この方法は不正確である事が分かっている。現在、その方法の代わりに、脳のfMRI診断が像を使おうという風潮が高まっているが、その正確性については、疑問が残っている。

4.薬物の脳への影響
(1)薬の悪用
向精神薬は人々に様々な気分変調をもたらす。それを利用して、抗うつ剤や、精神安定剤として多くの患者さんに利用されている。しかし、健康な人々によって悪用される例もある。たとえば、脳疾患による睡眠障害に対して中枢神経興奮剤は、集中力を上げるなどして、テストの成績のために取引されていたりもする。そのほか、スポーツ選手のドーピング問題などもある

(2)オキシトシンによる自閉症の治療
オキシトシンは愛情や愛着を感じさせる物質として知られている。例えば、出産後のマウスにオキシトシンの働きを阻害する物質を投与すると、自分の子どもを攻撃する事が知られている。そこで、金沢大学の研究グループが自閉症の子どもに対してオキシトシンの投与を行い、どのような効果があったかを調べた。結果、医師には分からないが両親にとっては劇的な変化が現れた、という例もあった。その一方、なんの変化も現れない、という例もあった。

(1)「死後の世界」の共通点
人種、民族、文化、宗教、年齢、社会的地位などをとわず、「私は死後の世界を見てきた」と主張する人の話の中には、共通点が多く見られる。それは、安らぎや幸福感がある、体外離脱、暗闇、光の存在との出会い、死者や神とのであい、人生の回顧、境界(川、門、壁など)である。

(2)臨死体験は脳内現象?
以上に述べた共通の現象は、生物学的に説明のつく事である。臨死体験に陥っている時、呼吸、拍動は停止している。すなわち、脳はとてつもなく酸欠状態に陥っている、という事である。その酸欠状態によって神経細胞に特異活動が引き起こされ、臨死体験がおこるのである。
このように、一見、非科学的な事であったとしても、実は身体の精巧な仕組みによって機械的に管理されているのである。


以上で授業まとめを終わります。