生命論第10回 3D35

今回は、淀川キリスト教病院(ホスピスこどもホスピス病院)に勤めていらっしゃる杉田智子先生に講義をしていただきました。がんについてのお話から、緩和ケア、ホスピス、末期がんを患った時の患者さんの心など、実際の緩和ケアの現場からの視点で教えてくださいました。
以下よりまとめとします。

1.日本での死、がんについて
⑴日本における死の傾向
平成23年の日本での総死亡数は119万人。
死亡順位は、
①悪性新生物(がん) 28.3%
②心疾患 15.4%
③肺炎 9.9%
④脳血管疾患 9.8%
⑤不慮の事故 4.7%
⑥老衰 4.1%
⑦自殺 2.3%
となっている。
がんは死亡原因の第1位であり、「日本人の2人に1人ががんにな」り、「日本人の3人に1人が、がんで死亡」すると言われている。

⑵がん対策の法律、計画
がん対策基本法:2007年4月施行。がん対策を総合的かつ計画的に推進するために、がん対策推進協議会を置き、国と地方公共団体との連携、基本的施策、計画を定めた法律。
がん対策推進基本計画:がん研究を基盤に、がんの予防・早期発見、相談支援・情報提供、治療・初期からの緩和ケアによって、がんによる死亡者の減少・苦痛の軽減・療養生活の質の向上を目指す。

淀川キリスト教病院 がん診療センター
2008年 がん診療センター設立
2009年 大阪府がん診療拠点病院指定
大きく診療部門と相談支援部門にわかれる。
診療部門:集学的治療(外科療法、内視鏡療法、化学療法、放射線療法、緩和医療内科、緩和ケアチーム)、ホスピスこどもホスピス
相談支援部門:相談支援部門(がん相談支援、地域医療連携、在宅療法支援、医療社会事業課)、院内がん登録


2.緩和ケア
⑴緩和ケアの定義(WHO 2002年)
「緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、疾患の早期より痛み、身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題に関して的確な評価を行い、それが障害とならないように予防したり、対処することで、QOLを改善するアプローチである。」
ここでは、以前のWHO定義と違って、病気が治る状態か、治らない状態かは区別していない。

⑵がんの緩和ケア
がんの緩和ケアでは次のような役割を担っている。
・治療の初期段階からの緩和ケア
・がん患者の意向を踏まえた住み慣れた家庭や地域での在宅医療の充実
・身体的苦痛のみならず精神心理的苦痛等を含めた全人的な苦痛に対する緩和ケア
・がん患者に加え、その家族への緩和ケア

⑶緩和ケアを支える医療機関
ホスピス緩和ケア病棟ー2013年2月現在 274施設 5475床
・緩和ケアチームー2013年2月現在 194施設(大阪府20施設)
・在宅ホスピス緩和ケアー訪問診療、訪問看護訪問介護デイケアなど在宅療養を支援するサービス

⑷緩和ケアチームにかかわる職種とその役割
・医師:痛みなどの体の症状の緩和を担当する医師と精神症状の治療を担当する医師が、担当医と協力して治療を行う。
・看護師:仕事の90%がケアチームにかかわるものである看護師。緩和ケア認定看護師、がんの痛みを学んだ認定看護師、がん看護の専門看護師など。
患者や家族のケア全般についてのアドバイスを行う。転院や退院後の療養についての調整も行う。
・薬剤師:患者や家族に薬物療法のアドバイスや指導を行う。また、医療者に対して専門的なアドバイスを行う。
ソーシャルワーカー:療養にかかわる助成制度や経済的問題、仕事や家族などの社会生活、療養先に関するアドバイスを担当する。

患者さん一人一人の治療方針やより過ごしやすい環境を作るために、チームでカンファレンスを行う。ヘルパーや訪問看護ステーションとカンファレンスを行うことも。

3.ホスピス
ホスピスとは
ホスピス:「親切であたたかくもてなすこと」の意。(中世において、巡礼者の休憩の場であった。)
近代社会においては、自分の死に直面するという最も難しい旅において保護と安楽を提供する特別なケアの理念を意味する。

ホスピスケアの基盤となる考え方
・基本的ケアの徹底
・「その人らしい」最期を
・死の現実から目をそらさない
・真実への権利
・細やかな患者の理解
⇨医療チームが一丸となったケアの実践

淀川キリスト教病院ホスピスこどもホスピス病院
開設:2012年11月(それ以前は淀川キリスト教病院7階にあった)
理念:全人医療
目標:患者と家族にとって最良のQOLの実現をめざす
病床数:15床(有料個室8室、無料個室7室)

4.がんを患うということ
⑴がんの進行に伴う心の変化
がん告知
治療への不安
手術に伴う身体機能の喪失、ボディイメージの障害
化学療法や放射線療法による副作用と予期不安
再発への恐怖
病気による社会的機能の喪失
病状進行に伴う日常生活機能の低下
死への恐怖

患者は病状が進むにつれた上記のような全人的苦痛(身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルペインを含めた苦痛)を持っているが、その一方で次のような希望、感情を持つことも多い。

・大切な人とともに、普段通りの生活を
営み続けたい。
・喪失や悲しみを嘆く一方で、今ここにあるもの、手にすることができたことに感謝する。
・希望を望みつつ、この先に待ち受けていることを受け入れる。
・手放す一方で、つかまろうとする。
・終わりにしたいと思いながら、急ぎたくない、ゆっくりと、と願う。

⑵看護師として大切なこと(周りの人たちが気をつけるべきこと)
まず、相手に関心をもつことが大事であり、「相手をわかりたい、支えたい」「関心を寄せ続ける」という意識の上で、次のことが挙げられる。
・語りをじっくり聴く。
・自分の価値観を知った上で、括弧にいれ、患者、家族の価値観を尊重する。
・語りの背後にある感情について探る。
・想像力を働かせる。
・適切に自分の感情を伝える。
・生や死に関する自分の考えを言語で伝える。
・自分自身の限界を知って誠実に対応する。
・他者に依頼する勇気をもつ。
・自分の気持ち、時間をその人に合わせる。

5.ビデオ鑑賞
NHK「プロフェッショナル-仕事の流儀-」第91回2008年6月24日(火)放送
希望は、必ず見つかる~がん看護専門看護師・田村恵子~