8月26日の授業報告(ⅢA 37)

 今回は、京都女子大学現代社会学部教授、大阪大学大学院医学系研究科招へい教員でおられる霜田求先生に「遺伝子と生命」のお話を聞かせていただきました。
 
0.最近のニュース
◆iPS細胞:がん化抑制に成功 新遺伝子を使用―京大チーム
 ・06年、山中教授らは4遺伝子を使うiPS細胞を作成→がん化の危険性
 ・アメリカで遺伝子を使わない技術を開発→なんだか微妙
 ・そこで研究グループは、c-Mycよりもアミノ酸配列が短く、肺がん患者によく見られる遺伝子L-Mycに注目
  →がんはほとんどできなかった。iPS細胞が樹立される効率もアップ!
 
◆長寿者遺伝子発見?
 ・米ボストン大学の研究チームが、100歳以上の長寿の人に共通する遺伝子の特徴を突き止めたと発表した
 ・そもそも寿命は、遺伝子要因だけでなく環境要因に左右される
  →その長寿者遺伝子があると、長生きするのに有利だというだけ
 
はじめに:遺伝.遺伝子とは
◆「遺伝」とは(詳しくは「デジタル大辞泉」を参照)
  「遺伝子」とは(詳しくは「知恵袋2010」参照)
 ・遺伝の概念は昔からあったが、遺伝子が見つかったのは意外と最近であり、1953年にワトソンとクリックの二重らせんモデルによって初めてその実体がDNAの塩基配列であることが立証された
 
◆「遺伝」にまつわる誤解(詳しくは信州大学医学部附属HP参照)
 ・病気の原因には大きくわけて環境要因と遺伝要因がある
 ・しかし多くの疾患において、免疫力などという体質すなわち遺伝要因が関与している
  (たとえば、100本タバコを吸ってもがんにならない人もいれば、副流煙でがんになる人もいる。)
 
1.遺伝子と疾患
◆肺がんリスク遺伝子発見/「喫煙量に関係」との指摘も
 ・肺がんを発症しやすい体質かどうかに影響する遺伝子の個人差を発見
 ・アイスランドは、政府が国民の全遺伝情報調査に積極的である
  (アイスランドは人口が少ないため、○○の家系、遺伝子の度合いなどがよくわかる。
   しかしプライバシーの問題などがあり、拒否する人もいる)
 
◆糖尿病「2型」発症関連遺伝子 理研など2チームが特定
 ・糖尿病は日本で1000万人以上の人がなっている国民的病気
 ・日本人はアルコールに弱い人も、欧米人に比べて多い
 ・遺伝子治療はやはりムズカシイ、これらの遺伝子特定や研究は薬の開発ため
 
2.遺伝子診療:遺伝カウンセリングの事例
◆結婚前
  先天性と思われる知的障害者が血縁者に数名いることから、自分もその原因遺伝子の保因者ではないかと疑い、遺伝カウンセリングに訪れる。婚約中で、生まれてきた子どもに発病するのではないかと心配し、自らの遺伝子検査を望んでいる。もし自分が保因者である場合、そのことを誰にも知られたくないし、婚約者およびその両親が家柄や血筋を重視するタイプなので、そのことは告げずに婚約解消を申し出るという。
 ・ここでは、遺伝子を理由にレッテルをはる、という遺伝差別が起きている
 ・日本人はそういう考え方をする風習のため、差別が起こりやすい
 
◆出生前
  夫の叔母がが先天性の精神患者である20代の夫婦が、妻の妊娠初期段階で、子どもにその疾患が受け継がれるのではないかと相談にきた。もし胎児検査でその可能性が高いと分かった場合は中絶することを前提に、検査を申し出た。
 ・これは日常的に行われているカウンセリング内容である
 ・このような選択的中絶は年間30数万件行われており、とても多い
 ・厳密に言うと法律違反だが、解釈の仕方により、うまく行われている
 ・例えば、ダウン症など染色体異常
 
◆発症前
  祖父と父親が同じ臓器のがんで死亡しているため、18歳の男性が自分もその遺伝的要因があるのではないかと考えた。もし自分も同じ遺伝子をもっている場合は、真面目にこつこつ働くのはやめて、「太く短い人生」をエンジョイしようと考えている。
 ・こういうケースでは、「このような動機はよろしくない」と言ったりして対処する
 
◆このカウンセリングは医療の枠をこえているのでは?
 ・遺伝カウンセラーは数十人で、ほとんどはドクターが行っている
 ・みんなでディスカッションしたりして、考えたり苦労している
 
2.遺伝子治療:遺伝情報をめぐる問題
◆遺伝情報による差別禁止法
 ・ブッシュ米大統領は2008年5月21日、多額の医療費がかかる病気を患う確立が高いなどの遺伝情報を理由に、雇用や昇進、保険加入を拒否するなどを禁じる「遺伝情報差別禁止法案」に署名し、同法は成立した
 ・遺伝情報による差別は、起こり得る現実的問題である
 
3.消費者直販遺伝子検査
◆未来のカルテ:遺伝子診断は今
 ・口中粘膜などを検査機関に送り体質を調べる検査が、最近よく見られる
 ・インターネットや郵便で申し込み、医療機関を通さないことから、
  「DTC(ダイレクト・トゥ・コンシューマー:消費者直販遺伝子検査)」と呼ばれる
 ・3つの遺伝子から肥満のなりやすさを調べるものが多く、体質にあったダイエット法を教えるなどというものだ
  これが一番商売になるからである
  ある広告によると、\5200→期間限定\4700と格安
 ・アメリカの「23 and me」では数百万人が検査した
 ・「有用性が科学的に証明されていない以上、これらの検査を商業ベースで行うのは詐欺と同じ」という意見が
  ただ、法的規則はないため、検査サービスの提供を禁止することはぢきない
 ・実際2つの会社に検査を申し込むと、全く違う結果が返ってきた
 ・「予防医療の一環として、遺伝子検査は既存の検査の質を高めるために行っている」という考えもある
  確かに意識改善をすすめるのに有効だが、例えば肺がんのリスクの低い人に禁煙をすすめにくくなる可能性がある
 
4.遺伝子操作:着床前診断・胚選別
◆各国の規制状況
 ・法律で禁止:ドイツ、スイス、オーストリア
 ・法律で条件付容認(重篤な遺伝性疾患の場合のみ):フランス、デンマーク、スペイン、スウェーデンなど
 ・法律による規制なし(行政などの規則により事実上容認):英国、米国、オランダ、ベルギーなど
 *日本は日本産科婦人科学会の見解(1998年、2006年追加)による任意規制(重篤な遺伝性疾患に限り適用、学会の委員会による個別審査)
 
 世界規模での法律は無理なのか?
 ・国ごとで考え方や文化などが大きく異なるため、無理
 ・唯一「クローン人間禁止」だけ国連で決まっている
 ・ナチスなどから優生思想を強く禁止しているドイツでも、車でベルギーに行けば誰でも行うことができてしまう
 
◆病気の兄姉への移植前提「ドナー・ベビー」、英が容認
 ・英国で、白血病の子どもを持つ夫婦に対し、体外受精の技術を応用して、臍帯血移植をするのに適したタイプの第2子を産むことが認められるようになった
  いわば「ドナー・ベビー」に道を開く決定として、議論を呼んでいる
 ・英国内の専門医の間からも「子どもを治療の『道具』として扱うものだ」などとする反発の声も上がっている
 ・日本国内ではできないが、米国に行けばできる
 ・今までで200例ほどあり、ほとんどが米国である 毎日行われている感じ
 
5.遺伝子と能力・行動
◆記憶力を左右する遺伝子、米で突き止める
 ・記憶力のよしあしを左右するとみられる遺伝子を、米国立精神健康研究所などが突き止めた
 
◆疲れない、太らない/遺伝子操作で「マラソンマウス」
 ・遺伝子操作によって、長時間走り続けることができ食べても太らないという究極の「マラソンマウス」を作ることに
  米ソーク研究所や韓国のソウル国立大などのチームが成功した
 ・この遺伝子の仕組みを応用すれば、スポーツ訓練たダイエット用の効果的な薬が期待できる
  その一方、遺伝子工学で強力なスポーツ選手を作り出す「遺伝子ドーピング」に悪用される恐れもある
 
◆攻撃性抑えるホルモン、東北大などが新機能を発見
 ・「オキシトン」は社交性ホルモンと言われている
 ・「遺伝子操作などでオキシトンの働きを強めれば、ライオンのような猛獣でも性格を変えて、ペットにできるかも」
  と研究者らは話している
 ・「オキシトンは、哺乳動物が相互関係を築くのに重要な役割を果たしている」と分析している
 ・虐待をする親にオキシトンを投与してみてはどうか
 ・自閉症などコミュニケーション障害の子に対してオキシトンを投与してはどうか
  と考えられている
  しかし、害があるかもしれないので、慎重に研究がすすめられている
 
6.遺伝子と社会
 優生思想と結びつき、様々な社会的影響があると考えられる。
 
授業の感想
 「遺伝子と生命」というテーマで授業していただき、これは私にとってとても興味深い内容でした。
個人レポートでもそのようなテーマで調べたのですが、今回の授業では、新たな知識を得ることができ、新たな別の角度からの見方などもできました。
新聞記事からの引用などもあり、最近のニュースを知ることで、より現実味を感じることができ、もうここまできているのか……と考えさせられました。
遺伝子分野の研究は、最近急速にのびてきて、とても注目されています。期待もされています。が、それと同時にたくさんの問題もあります。みんなが正しい遺伝子についての知識を共有できて、しっかり考えられるといいなぁと思います。
国レベル、世界レベルの問題ですよね。
霜田先生、今回は貴重な時間をどうもありがとうございました。