第12回 遺伝子と生命


先日、附高祭でのポスター展示にお越し下さったみなさん、ありがとうございました。
たくさんの方々に見ていただけてとても嬉しかったです。

さて、今回の授業では霜田先生に「遺伝子と生命」について教えていただきました。

1.遺伝・遺伝子とは

○基礎知識

「遺伝」…生物の形質[形・色・大きさ、機能・能力・行動性向等]が遺伝子によって、親から子へ、あるいは細胞から次の世代の細胞へ伝達されること(「デジタル大辞泉」より)

ここで印象的だったのは、形質の決定に関して、それぞれ環境要因の比率が異なるということです。例えば、身長と体重では身長の方が遺伝的要因の比率が高く、体重の方が環境要因の比率が高いです。また、能力や行動性向(内向的・外交的、社交的・非社交的といった行動の傾向のこと)は身体的な形質に比べて環境要因の比率が大きいです。

「遺伝子」…遺伝形質を決定する因子(「知恵蔵2010」より)

重要なのは、前述の内容からもわかる通り、ほとんどの場合において遺伝子と形質が一対一で対応しているわけではないということです。環境要因や、複数の遺伝子の相互作用による非常に複雑な仕組みの中で形質は決定していると考えられます。

○遺伝子と疾患

イワシなどに含まれる不飽和脂肪酸の体内への取り込みに関する遺伝子が、統合失調症の原因遺伝子の一つであることがわかっていますが、統合失調症の発症には複数の遺伝子と環境要因が複雑に作用しあっていると考えられています。

(2)糖尿病
日本の糖尿病患者の95%以上を占める2型糖尿病の発症に関わる遺伝子が特定されています。この遺伝子に変異はインスリンの分泌低下を招くと見られていて、変異がある人は、ない人に比べて発症の危険性が高まるそうです。2型糖尿病は生活習慣が発症に大きく関わっていますが、遺伝的体質も関係していることがわかりました。

(3)老化を防ぐ
サーチュイン遺伝子という遺伝子の働きによって、老化にブレーキをかけることができるそうです。この遺伝子を働かせるためには、カロリー制限をすることが有効だとされていて、ある種の「飢餓」状態を作ることが(「このままだと子孫を残すことができない」という本能によって?)この遺伝子のスイッチをオンにするようです。しかし、カロリー制限による弊害も考えられるので、手放しに推奨できるものではなさそうです。

2.遺伝子カウンセリング

○事例

相談者の状況に応じて大きく次の5つに分けられます。

a)結婚前(premarital)
例)婚約者および家族が家柄や血筋を重視する
授かる子どもが遺伝病を発症する可能性を考慮
自分が遺伝病の原因遺伝子の保因者であることを調べる

(b)妊娠前(preconception)
例)第一子が遺伝病を発症
→障がい児を一人育てることはできるが、二人は難しい
→第二子が同じ疾患にかかるリスクを調べる

(c)着床前(preimplantation)
例)第一子が染色体異常であった
→第二子が同じ疾患にかかるリスクを調べる
→リスクが高ければ、体外受精によって疾患の可能性の少ない胚を選び、妊娠・出産したい

(d)出生前(prenatal)
例)妊娠初期に血縁者に先天性の遺伝病を持つ人がいることがわかった
→子どもにその疾患が受け継がれることを心配
→胎児検査でその可能性が高いとわかった場合は中絶したい

(e)発症前(presymptomatic)
例)血縁者に若年性アルツハイマーで亡くなった人が複数人いる
→若年性アルツハイマーは発症遺伝子が特定されている
→発症する可能性を知りたいが、治療法がないのでもし陽性だった場合も不安

○基本原則

(1)非指示性の規範:偏りのない情報提供をし、特定の価値観・選択肢を押し付けない
(2)クライアント(来談者≠患者)の不安・恐怖・苦悩に対する受容的態度と共感的理解
(3)クライアントの自律の尊重および十分に情報を得た上での意思決定への支援

3.遺伝子検査ビジネス

○遺伝子検査ビジネスとは

医療機関、医療・健康関連産業、非医療産業(サプリメント企業、ベンチャー企業、学習塾など)が、主にインターネット通信販により、試料(口腔粘膜、唾液)送付・検査施設でデータ取得・解析結果と解説返送、というサービスを有償で行っています。

○遺伝子検査ビジネスの類型

①医療・健康検査:がんや生活習慣病のリスク評価、体質(肥満、高血圧など)検査など
 a)自由診療(クリニック、検査サービス企業)
 b)消費者直販型(direct-to-consumer:DTC)
②子ども才能検査:学習能力、身体能力、感性など
③祖先検査:エスニシティ(民族性)、祖先の居住地など
④その他:遺伝子コスメ(美容)、スポーツ関連(持久力など)、親子鑑定など

○専門家の意見

・「有用性が科学的に証明されていない以上、これらの検査を商業ベースで行うのは詐欺と同じだ」福嶋教授(信州大学
・「星占いや手相と同じ感覚で遺伝子占いをするようなもの」A医師(臨床遺伝専門医)

○遺伝子検査ビジネスの問題点

①科学的根拠の不十分さ
②被験者が検査結果の情報を正確に理解せず、誤った医療行動をとる可能性
医療機関以外では個人情報保護が遵守されない可能性
④ビジネスとしてのいかがわしさ

遺伝子検査にはこれらの問題点がある一方で、「消費者が自らの医療・健康における将来に対する自律とコントロールを獲得できる」というメリットもあります。

まとめ

・遺伝子は私たちの健康状態や能力に影響を与えていることは間違いないが、その詳細についてはよくわかっていない
・遺伝子(およびDNAや染色体など)を調べる事で得られる情報をどのように取り扱うかを、個人・社会で考えていくことが必要



今回の授業を受けて、まず環境要因が大きいと思っていた性格的なところも、遺伝子のはたらきがベースにあるということに驚きました。
記事をまとめながら実感したのは、遺伝子と形質が一対一で対応していることはほとんどなくて、多くの場合は複数の遺伝子と環境要因が複雑に絡み合ってある形質として発現するということです。正直、子どもの才能検査なんかはめちゃくちゃ胡散臭い!と思いました。
専門家の意見にもある通り”占い”感覚で受けてみるならいいかもしれないけど、それにしては費用がかかりすぎるし、差し出す個人情報が「遺伝子」というのはハイリスクローリターンだな、と思います。
近い将来、遺伝子の情報がもっと大事にされる時代がきっとくる。そのときになって、簡単に悪用されてしまわないように遺伝子の情報の取り扱いに注意していく必要があります。
時代が変わっても、遺伝子の情報の持つ重みは変わらないはずなので、メディアや周囲に流されて軽んじることがないようにしたいです。

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