きっちゃん(d39)

ねずみをクロロホルムが充満したビンに入れるとき、いつも世話のときにケースからケースへ移動させられたときみたく、ぶらりとしっぽを摘まれ宙づりのまま、前足でがしりとビンのふちをつかんだ。
ビンの中に入れようと前足を救い取ったとき、今までビンのふちをつかんでいた、あの、くすぐったい小さな力が、私の左手の人差し指に。私はそのまま人差し指とともにねずみを押し込んだ。いつもはひょいひょいとつまみあげられる身体が、そのときは重く感じた、なんてことはなかった。今まで通りのあったかい体温だったし、変わらない重さだった。
ビンの中に入れた瞬間に時がとまったように、ネズミは目をかっと開いたまま、死んだ。安楽死、らしい。私の中での安楽死は目を閉じて、眠るようなイメージだったので、目がかっと見開いたのを見てびっくりした。そうなのか、こんなふうになるのか。
麻酔がきいてきた症状でねずみは無意識でもがくらしいが、ぴくぴくと2,3回痙攣しただけだった。よく見なければ見落としてしまいそうな変化だったので、あれ、こんなものなのか、と少し拍子抜けした。

・・・・命は重い、と聞くけど、私にはよくわからない。こんなにあっけなく死ぬのに、どうして命が重いのか。ほんとに小さくて軽くて軽すぎるくらいで、困るじゃないか。なんてあっけない。

お腹を裂かれたねずみの中はきれいだった。あの身体にぴったりでかわいいな、と思った。ここはこうなっているんだな、とてもいい勉強になった。私のねずみには赤ちゃんがちっさすぎてよくわからなかったけど、ねずみには子宮が2つ、あるらしい。なんて不思議。興味は尽きない。

私のねずみの赤ちゃんはちいさすぎてまだ形すらなかったけど、友達のねずみの赤ちゃんは妊娠11日目ぐらいらしくてかなり大きく形もはっきりしていた。水かきがまだ残ってたけど、手もあってしっぽもあって真っ赤な肝臓もあって心臓もある。羊膜をやぶり、ずるり、と赤ちゃんが出てきたときに、産まれた!と思った。全然お母さんと見た目が違うのに、まだ完全に発生してないのに。産まれた、赤ちゃん!!と思った。死んでるのに愛しくて、・・・・・考えると、シャーレの中に浮かぶいっぱいの赤ちゃんを見て、殺したねずみを見て。なんて言えばいいのだろうか。

やっぱり命は重くない。